里山のツキノワグマ 51 〜奥山と里山との境界を訪ねて 守門岳は越後の「なめとこ山」? 〜

 今日(2020.10.25)の定点観察も朝方の雨を避けて、午前中に行いました。昨日に引き続いて時雨模様の天候ですが、時折眩しいほどの太陽が、寒気に伴う積乱雲の合間から顔を覗かせます。1日1日冬が近づいていることを実感する秋の日です。

 さて、今日の調査では冷たい雨の影響か、ツキノワグマの新しいフィールドサインは発見出来ませんでした。インジケーターの柿の木にも異常無し。道路上にはタヌキの溜めフンがありますが、朝方までの雨に流されて崩れかかっています。

 

時々誤った報告が上がってきますが、この写真のフンの排出者はホンドタヌキです

タヌキは人里近くに生息しており、橋の袂や里山の出口付近で溜めフンをする習性があります※

 ※フンの量が多くても、細いフンが多数堆積している場合は「ホンドタヌキ」のフンです!

 

 こんな日はちょっと足を伸ばして、「守門岳山系におけるツキノワグマの基盤生息域(奥山)」と「里山エリア」との境界にあたる「本高地沢」と「中の高地沢」の合流点付近を調査しましょう

<上段左の写真がクマの基盤生息域である「中の高地沢」のブナ自然林、上段右の写真がその渓流部分です>

<下段左の写真が同じく「本高地沢」方面のブナ自然林、上段右の写真がその渓流部分です>

 

 この写真を撮影した場所は標高560m付近の林道二分線の路上になりますが、概ね山腹を横切る林道より奥の山が「ブナ自然林(奥山)」、下手の山が旧薪炭林と杉の植林地(里山)」という区分になります昨日は宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」を御紹介しましたが、こうして守門岳のブナ自然林を観察していると、「ここから奥が越後の”なめとこ山(ツキノワグマの基盤生息域)”」なのかも知れないなあ・・としみじみと思います。ブナの巨木や清冽な渓流の流れを見ていると、ブナの森の恵みをイメージできます。昭和50年代までは、これらのブナ自然林が「新潟県魚沼地方におけるツキノワグマの主な生息地」でしたが、今では「人里のすぐ裏の山もツキノワグマの行動圏」となっています。

 現在のツキノワグマの大量出没や人身被害の発生を考察すると、長い時間が必要かも知れませんが、「クマと人との境界線」を「奥山と里山との境界」にまで押し上げる必要があります。そして実際にブナの自然林を訪ねてみると、「人間が奥山をめちゃくちゃに荒らした」とか「人間がクマの住処を奪った」といった言説は、当地についてはちょっと違うように感じます。新潟県の守門岳は多くの方が登山や山スキーで訪れる山域ですが、ブナの自然林がしっかりと存在しています。守門岳の奥山エリアは文字通り「ツキノワグマの故郷」なのでしょう