里山のツキノワグマ 82 〜ホオノキに残された「クマの親子の木登り練習日記」?〜

 今日(2021.03.07)は好天の日曜日ということで、定点観察地点にツキノワグマが残した「フィールドサイン(生態痕跡)」の雪上調査を実施しました。

<左:今日は最高の調査コンディションです 右:雪上調査にはテレマークスキーが最適>

 

<左上:イノシシのエサ場には森との間に明瞭な通い路 右上:摂食のためにイノシシは土手を掘り返す>

<左下:猟友会の皆さんに驚き逃げていったイノシシの足跡 右下:雪面に残されたイノシシの足跡>

 

 今日は条件が許せば守門山系の奥山に出掛ける選択もありましたが、守門アメダス観測点のデータを確認すると、昨日からの雨と寒気流入・放射冷却による冷え込みにより「奥山の斜面の凍結(※)」が予想されたため、奥山の調査は次回以降とし、今回は里山エリアの雪上調査に切り替えました。出来れば前回発見したニホンイノシシのエサ場(積雪が少ない湿地)でイノシシの群れも観察したかったのですが(そのために20倍の望遠カメラも持参)、丁度地元の猟友会の皆さんがウサギ狩りを行っており、イノシシは警戒して姿を見せませんでした。それでも「ついさっき逃げていった風のニホンイノシシの足跡」が雪面にありましたので、これらのイノシシがこの豪雪地で越冬する可能性が益々高まっていると言えます

 イノシシは地中の小動物を食べるために水田の畦を派手に掘り返したり、水稲(イネ、特に刈り取り前の稲穂)そのものをエサ資源として大量に摂食しますので、春以降の農作物への影響が心配です

※2021年3月7日の正午前後に県警ヘリ(青い機体色に赤い縦ライン)が守門袴岳から守門黒姫方面へ飛行し、また同じタイミングで国道252号線を魚沼市消防本部のPAレスキュー隊が大白川方面へ緊急走行して行きましたが、警察・消防の皆さんが連携して守門岳で救助活動にあたっている様子でした。翌日の新聞報道によれば、要救助者(登山者)の方は県警ヘリにより無事救助されたようで一安心です。当方も登山者救助の経験がありますが、警察・消防の皆さんが現場に来て下さると安心感が違います。

 他の方の登山報告によれば、「奥山ではブナの小枝に過冷却水による雨氷(うひょう)が形成されるコンディション」でした。この時期に雨天から放射冷却現象に移行すると「雪面の氷結が顕著」となり、斜面滑落の危険性が増大します。越後の雪山で登山をされる方はアイゼンやピッケルの装備もお願いいたします。また近年利用者の増えている「ファットスキー(幅広の深雪用スキー)」はエッジポイントが遠くなるため、特に氷結斜面の滑走やトラバースではその取り扱いに一層の注意が必要です。

 

 さて、本来の目的であるツキノワグマのフィールドサインですが、今まで調査していなかった南西方面(五輪峠付近)へ進むと、ホオノキにツキノワグマの爪痕(新旧・大小)が沢山確認されました。ツキノワグマはホオノキの新芽も摂食するようですが、これらの爪痕を観察すると、「摂食のために新芽のあるホオノキの枝先まで登った」というよりは、「子グマの木登りの練習やその見本として、(遊びながら)クマの親子がホオノキに登っている印象」が益々強くなりますこれらのホオノキに残された爪痕は、まるで「クマの親子の木登り練習日記」ですね

 クマの親子が積極的に木登りの練習をしているとすれば、「この場所(里山エリア)は母グマにとって安心できるホームレンジ(中心行動圏)」であると解釈することも可能です。実際に昨年は複数頭のクマの目撃情報や、子グマの目撃情報がこの調査区の周辺で得られていますので、「里山で子育てしているツキノワグマ(母グマ)」が存在していても不思議ではありません。時計の針を巻き戻せば「複数のツキノワグマが入れ替わり立ち替わり確実にこの場所で木登りしていた」訳で、時空を遡ってその場面を観察してみたくなります。

<左上:現在の積雪は約2m、クマの爪痕は丁度雪面の高さ 右上:新旧様々なクマの爪痕>

<左下:細長い3本の爪痕は子グマのもの? 右下:コナラの樹上には昨年秋に形成された熊棚>

 

<左:地元の伝統的なクマの猟場である守門岳南麓 右:調査後はテレマークスキーで素早く下山