里山のツキノワグマ 83 〜クマの伊勢参り(奥山と里山との間の季節大移動)はあるのか?〜

 昨日(2021.03.09)は朝方の放射冷却により、凍結した雪面を歩く「凍み渡り(しみわたり)」ができました。

<左上:定点観察地点を遠望 右上:雪面は朝方の冷え込みでカチカチに凍結>

<左下:水田から杉林へ続くイノシシの足跡 右下:ヒヅメの形が明瞭なイノシシの足跡>

 

 カチコチに凍結した雪原を歩いてゆくと、昨年夏から「里山のツキノワグマ」を継続して調査・観察している当方の調査エリアが遠望できます。この調査エリアの面積は約5平方km、最高標高は578mに過ぎませんが、10年ほど前からツキノワグマの出没が相次いでいます。

 人里近くにツキノワグマが出没する原因として「奥山の開発行為によってクマの居場所が失われた」「奥山の木の実が不作で、エサ不足のクマが人里まで降りてきた」といった説明が一般になされますが、当方の調査では「里山(旧薪炭林)の豊富なエサ資源」と「クマの行動圏の拡大」が「人里へのツキノワグマの出没をもたらしている」との印象が強くなっています。特に、今冬「ツキノワグマが冬眠可能なシロヤナギの樹洞を里山エリアで発見したこと」で、「里山のツキノワグマ」に関する調査は新たな段階(クマの里山への定着の検証)に入ったように思います。里山エリア(旧薪炭林)では伐採間隔が短いため、樹洞を有する大径木は少ないと思いがちですが、実際に調査してみると伐採範囲から外れた沢沿いのシロヤナギ(今冬発見)や、成長が早く樹洞が出来やすい桐、山界の目印木、神域として伐採されなかった寺社林など、クマが冬眠に使用可能な樹洞が里山エリアに存在する可能性は十分あります。里山エリアにおけるツキノワグマの冬眠環境(特に樹洞や洞穴などの存在や構成)と定着、クマの繁殖・仔育行動がどのように展開されているのか、非常に興味があります。

 

 そして今疑問に思うことは、「里山のツキノワグマ」の「冬眠や摂食のための奥山と里山との間の季節大移動」についてです。新潟では「春の日本海でイワシなどのエサ資源を追って北上するイルカの群れの行動」を「春のイルカの伊勢参り」と表現することがありますが、同じように「奥山と里山との間を大きく季節移動するツキノワグマ」が存在しているのでしょうか?

 仮に「ツキノワグマの春の伊勢参り(季節大移動)」が存在するとすれば、「冬眠明けした奥山のクマ」が「新しいエサ場である里山へ向かうために」この調査区(守門山系の奥山と里山との接続地点)を「移動経路として通過する」とおもわれます(現在のところ、当方ではこれを裏付ける目撃情報無し)若しくはツキノワグマは既に里山エリアに定着し、里山で冬眠し、里山で世代交代を重ねているのでしょうか 積雪も安定し、そろそろ奥山のブナ原生林帯(守門山系・守門黒姫エリア)の実踏調査も可能となります。「里山の調査」と「奥山の調査」とを対比させながら、今後も調査研究を継続してゆきます。

 

<左:定点観察エリアにはオニグルミが豊富 右:急傾斜の斜面では雪崩により地表面が露出します>