里山のツキノワグマ 84 〜蓄積を続けるバイオマスと越冬したイノシシ、寄り着くツキノワグマ〜

 昨日(2021.03.11)は東日本大震災から10年ということで、様々な特集番組が放送されていました。10年前の当日、当方は守門大岳の冬山登山から帰宅し、その片付けを自宅で行っているタイミングで大地震を体験しました。仮に冬山の山中であの地震に遭遇していたら、大規模な雪崩に巻き込まれていたかも知れません。中越大震災や中越沖地震も経験していますが、地震への備えを忘れずに日々を過ごしたいと思います。さて、そんな3月11日でしたが夜明けがだいぶ早くなりましたので、早朝の定点観察を実施しました。

<左上:早朝の里山では凍み渡りが可能 右上:雪面には昨夜のイノシシの足跡あり>

<左下:イノシシを追跡するハンターのカンジキ跡 右下:イノシシの足跡は前回のネヤ(寝屋)へ>

 

<左:杉の木の根元にあるイノシシのネヤ(寝屋) 右:ネヤにある杉の葉の寝床と大量のフン>

※このイノシシに関する情報は魚沼市生活環境課へ通報済みです

 

 早朝の里山エリア(旧薪炭林)では、ニホンイノシシの活動が活発になっており、昨晩の足跡とこれを追う猟友会のハンターの方のカンジキ跡とがしっかりと残っていました。またこのイノシシの足跡の先には以前当方が発見したネヤ(寝屋)がありますが、そのネヤには大量の杉の葉とイノシシのフンが残っています。イノシシはこのネヤから更に奥にある杉林に隠れている様子ですが、これ以上深追いするとイノシシから反撃される危険性がありますので、追跡はここで終了しました。

 新潟県魚沼地方は日本有数の豪雪地帯であり、守門西名アメダス観測点におけるこの冬の最高積雪深は324cm(2021.02.19)となっています。そして新潟県魚沼地方では近年までニホンイノシシはほとんど生息していませんでしたが、一昨年の暖冬少雪を経て昨年からこの里山エリアで頻繁にニホンイノシシを目撃するようになりました。またツキノワグマについては、約10年前からこの里山エリアで毎年のように目撃されています。

 教科書的に言えば、「ニホンイノシシは豪雪地では越冬出来ない」という理解が一般的ですが、実際にフィールドで観察すると「降雪期のシェルター(杉林)や厳冬期の餌場(湿原など)等の条件が揃えば、ニホンイノシシも豪雪地で越冬可能」という見解も出てきます。春以降の獣害が心配です。

 

 イノシシは雪消え直後から里山エリアの地中にあるクズやフジ、アケビの根塊等を摂食しますので、大量のバイオマス(生物由来資源=現生の植物の葉や種子に加えて、倒木に発生した昆虫や腐食層に生息するミミズなどの生物を含む)が蓄積した里山を春先から餌場として利用することが可能です。そして、ここ数日の全国報道に見られるように、まだまだ報告数は少ないものの、ツキノワグマも3月上旬から人里近くで目撃されています。ツキノワグマについて言えば「里山エリアもツキノワグマの行動圏となっており」「里山エリアで冬眠したり、子育てしているツキノワグマがいても不思議ではない状況」があります。

 人里でツキノワグマが目撃されると、「奥山のエサ不足が原因」「人間が奥山をめちゃくちゃに開発したからクマの居場所が無い」という意見も見られますが、ニホンイノシシの出没とツキノワグマの出没とが当方の調査区で並行して発生している現状を分析すると、薪炭林として伐採されずに50年以上経過した里山や、耕作放棄された農地で蓄積を続ける「大量のバイオマス(生物由来資源)がこれらの動物の餌資源となり」、「イノシシやクマの大量出没を招いている」との印象を強くします

 また標高の低い里山エリア(当方の調査区は標高200m〜500m)は、新潟県魚沼地方のような豪雪地であっても「標高1,000m以上の奥山よりも雪解けが3週間程度早いため」、イノシシやクマにとって「時に里山は奥山よりも餌場条件(特に餌場の利用可能期間や放置農作物へのアクセスなど)に優れている」と言えそうです。

 ツキノワグマは高位捕食者であると同時にスカベンジャー(動物の遺骸摂食者)でもありますので、ニホンイノシシやニホンジカなどの野生動物がたくさん生息している場所(バイオマスが蓄積した里山エリア)にクマが寄り着くのは必然とも言えます