里山のツキノワグマ 32 〜新世代クマとは何なのか?〜

 今朝(2020.10.10)も里山エリア(エコミュージアム園内ではありません)の早朝定点観察を実施しました。以前は10月10日と言えば第一回の東京オリンピックを記念した「体育の日」であり、「晴天となる確率の高い特異日」でしたが、今朝の新潟県魚沼地方は不安定な風が吹く雨模様の天候となっています。昨日浅草岳に登山された方の情報でも「浅草岳の山頂付近の稜線は風が強く、ガスっていた」とのことです。

 

<今朝の里山エリアのルート上ではツキノワグマの生態痕跡は発見できませんでした>

<ニホンイノシシのヌタ場付近では利用度の高さから「イノシシの獣道」が形成されています>

 

 さて、今秋は全国でツキノワグマの出没と人身事故が多数報告されています。その中で「新世代クマ」という言葉が用いられるようになっています。とは言っても「新世代クマ」は動物行動学の正式な学術用語ではないようです。当方はほとんど使わない言葉ですが、「新世代クマ」の定義としては「人間を恐れず人里近くに出没するクマ」というニュアンスでしょうか。また「クマの二歳児問題」とか「人食いクマ」といった表現もネット上で散見されますが、刺激的な惹句(じゃっく、商業コピー)はツキノワグマをめぐる問題の本質を歪める恐れもあるため、当方では用いません。

 

<ツキノワグマの食性は柔軟です。その時々で最も効率的に採食できる(コスパの良い)対象をエサ資源としています>

 

 ここで「新世代クマ」と表現されるツキノワグマの行動とその背景を考察してみます。ツキノワグマは東アジアの日本列島とその周辺が中心生息地ですが、食肉目の哺乳類であっても「食性の幅広さ」と「群れを形成しない単独行動」、そして「環境適応力の高さ」を有しているため、史上最強の捕食動物である「文明と道具を使いこなす人類(マンモスハンター)」が台頭した「最終氷期と人類の狩猟採集時代」を生き抜き、現在でも日本列島(本州を中心として)に生息しています。またここ20年ほどは日本列島の森林再生に呼応して「ツキノワグマの生息数も全国的に増加傾向」です。

 このため旧薪炭林が成長を続ける新潟県魚沼地方においても顕著ですが、ここ400年ほどの間(江戸時代以降)で、現在の日本社会は最もツキノワグマと人間との物理的距離が近くなっています(特に里山に生息するツキノワグマ個体群)これらを背景に「ツキノワグマが人間と接触する機会も飛躍的に増え」、一部で「人馴れしたツキノワグマの個体が観察されている」と考えられます。若齢のツキノワグマは本来好奇心旺盛ですし、全体の個体数が膨らめば当然こうした活動的な若齢個体も増えます。とは言え「全てのツキノワグマが人馴れしている訳ではありません」。そして基盤生息域であるブナ天然林帯に生息するツキノワグマの個体群は、おそらく「新世代クマ」の定義からは外れるように思います。

 別の表現を用いれば「新世代クマ」とは「ツキノワグマが元来有している柔軟な環境適応性を、現代社会に生きる私たちが間近から観察した姿とも言えるのではないでしょうか。