里山のツキノワグマ 50 〜追跡個体SB1(Shy Bear1)は引き続きアケビを採食か?〜

 今日(2020.10.24)の定点観察は明け方の雨を避けて、正午過ぎに行いました。気圧配置が西高東低の冬型に近づいており、また正午前後にはミニ低気圧が新潟県を通過したようで、雨が降ってみたり晴れてみたり、本当に猫の目のようにクルクル天候が変化する1日となりました。そして「前回のフンの発見場所から300mほど東側の路上白線帯で、「アケビの種がたくさん含まれた新しいツキノワグマのフン」を発見しました。朝方の雨を考慮すると昨晩から今朝にかけて排出されたフンと思われますし、前回のフンの発見場所との位置関係から、前回の調査で名付けた追跡個体「SB1(調査区内の最西端で行動中のクマ)」が排出したフンと判断しています

 

<今日の調査は正午過ぎからでしたが、今回もツキノワグマのフンを発見しました>

<この定点観察地点には、美味しそうなアケビが沢山実っています>

<ちょっと雨で流されていますが、比較的新しいツキノワグマのフンです>

<当地のツキノワグマは10月下旬まで連日採食を続けていますが、このSB1は順調に冬眠に入るかな?>

 

 今シーズン(令和2年)は各地で「人里へのツキノワグマの出没」が相次いでいます。ネット上にはツキノワグマの大量出没に関する様々なニュースやコメント、意見が流れています。クマの大量出没の原因について、各大学や研究機関の方の見解として「今回の大量出没は堅果類のマスティング(豊凶サイクル)に連動した現象」と捉えています。

 しかし、以前の大量出没の時と異なる背景として「令和2年の今回は、ツキノワグマの生息域がより人里近くにまで拡大していること」が特長的です。そして堅果類のマスティングサイクルが数年後「大豊作」となった場合、大豊作の2年後にはツキノワグマの出生数の増加分が加算されますので「今回以上の大量出没となる可能性」があります。当方のフィールド調査で実感することは、「里山のエサ資源は多様性に富んでおり」「奥山より面積が格段に広く雪解けも早い里山」は、正に「ツキノワグマの新天地という事です

 

<上段左の写真は、当地の伝統的な奥山のクマの狩場である毛猛山系の足沢・太郎助山方面>

<上段右の写真は、同じく伝統的な奥山のクマの狩場である守門山系「袴岳」から派生する「本高地沢の斜面」>

<下段は集落の田圃の真裏の里山ですが、50年以上伐採されない旧薪炭林は樹種も豊富で、今では立派な森になっています>

<そしてここから続く森が、里山のツキノワグマが生息する、当方の定点観察地点である里山です>

 

 ツキノワグマの大量出没に際して、一般の方からは時に「山にはクマのエサが無い」「人間が奥山を荒らしたからクマが人里に出て来る」といった意見が寄せられますが、実際に現場で調査を重ねると「ツキノワグマは奥山にも里山にも生息していますし」「新潟県魚沼地方の成長を続ける旧薪炭林(里山)には、様々なツキノワグマのエサ資源が存在していること(クマのフンは”寡黙にして雄弁”です)」が分かります。そして調査を重ねれば重ねる程、新しい知見や、またこれに付随する様々な疑問が湧き上がってきます。博物館(ミュージアム)は知性を創造し、県民・市民の皆さんと共有するための機関ですので、今後とも地域に根ざした調査研究を行ってゆきたいと思います。