里山のツキノワグマ 69 〜裏山はクマ棚だらけ 雪景色の里山に冬眠穴を探して〜

 さて、今年も残り僅かとなりました。今日(2020.12.29)は日本海に低気圧が進んできたことで午後から「擬似好天(嵐の前の一時的な晴天)」となりましたので、兼ねてから予定していた「里山のツキノワグマの冬眠穴調査」を実施しました。

<今年、ツキノワグマが頻繁に目撃された場所の背後にはオニグルミの森が広がっています(※)

<当地のような豪雪地帯での積雪期のフィールド調査にはテレマークスキーが最適です>

<ツキノワグマが冬眠に入った積雪期を待って、冬眠場所を探ります>

<森の中には大木の空洞やニホンイノシシの新しい足跡が見られます>

※オニグルミの森(群落)の成立に関する機序についての記述はこちらを御参照下さい。

 

 今年(令和2年)は東日本の日本海側や中部北陸地方でツキノワグマが多数人里に出没し、クマによる死亡事故や人身被害も発生しました。その理由として一般的には「奥山のエサ不足が背景にある」と説明されますが、実際に当方が新潟県魚沼地方の定点観察フィールドで調査した結果は、単純な「奥山荒廃説」「奥山エサ不足説」とは異なります

<新潟県魚沼地方の奥山は国立公園や国定公園に指定され、美しいブナの天然林が広がっています>

<また人里近くの旧薪炭林は50年以上伐採されず、ツキノワグマの新しいエサ場となっています>

<旧薪炭林の森には、コナラの木に形成されたクマ棚(クマが枝を手繰り寄せる採食行動の痕跡)が多数あります>

<そしてホウノキやコシアブラの木にも、数年分のツキノワグマの爪跡が残されています>

 

 当方の定点観察地点の里山林(旧薪炭林)ですが、「標高500mほどの上部はブナとコナラの森」、「標高300m前後の場所はオニグルミの森」という構成になっています。ネット上の言説を見ると「今年は山の木の実は全滅」とか「山に動物の気配は一切無い」「ツキノワグマは飢餓状態」といった極端な見方をする方も中にはおられるようですが、当方が定点観察地点としているこの森では、「クマ棚が多数観察出来る」ことが証明するように「コナラの結実が確かにあり」、「オニグルミも平年並みの順調な実りでした」

 また自然観察や環境調査の基本的なスキルをお持ちの方であれば、フィールド(観察地点)に残された野生動物の痕跡(フィールドサイン)から、この森に今年どのくらいの堅果が実り、どれくらいの数のツキノワグマが訪れ、メス熊の栄養状態や来春の出産傾向までをも含めて、具体的にイメージ出来ることと思います

 そして「根雪期間が短かく」「豊富な年間降水量」と「夏場の日照条件」を有する新潟県魚沼地方の里山(旧薪炭林)の「エサ場としての潜在的なポテンシャル」は、「豪雪地帯の奥山(冷涼地)のポテンシャル」を大きく凌ぐのかも知れません

 

<2020年の夏から秋にかけて撮影した、新潟県魚沼地方の木の実の写真(コナラ、ミツバアケビ、サルナシ)>

<当地のツキノワグマのフンは実に見事です>

 

<今回の調査ではツキノワグマの冬眠穴は発見出来なかったものの、幾つかのヒントがありました>

<こんなに眺めの良いコナラの木に登って、ツキノワグマはクマ棚を作り、人里を見渡しているのですね>

 

 ツキノワグマは逞しく山野を駆け巡り、巧みにエサ資源を活用し、そして新潟県の豊富な積雪を「天然の断熱材」として、来春まで「森のどこかで」静かに冬眠(冬篭り)していることでしょう。山野が積雪で覆われるこの冬の時期は、クマにとっても、人間にとっても、ちょっと安心できる季節なのかも知れません