里山のツキノワグマ 73 〜雪上調査から浮かび上がる「里山へのクマの定着」〜

 今日(2021.01.17)は休日でしたが、冬型の気圧配置が緩んで薄日が差す天候となったため、昨年からの定点観察地点で「ツキノワグマの食痕調査」を実施しました。

<日本有数の豪雪地帯である新潟県魚沼地方でのフィールド調査にはテレマークスキーが最適です>

<里山のフィールドが積雪で覆われると、調査可能な範囲がぐんと広がります。そして写真奥の雪と霧に覆われた藤平山と守門岳は「越後のなめとこ山」とも云うべきべきツキノワグマの基盤生息域(奥山)です。※>

<前回の調査の際にも確認したコナラの木ですが、積雪が2m以上となっても昨年秋の熊棚がしっかりと残っています>

※宮沢賢治の「なめとこ山の熊」に関する記述はこちらです。

 

<この定点観察エリアにある野生の栗の木(柴栗)には、新しいものも含めて凡そ10年分のクマの爪痕が残されています>

<ドングリが不作な年だけでなく、ツキノワグマはこの里山エリアを継続的に利用している事が推察されます

 

 当方の定点観察エリアは守門岳の南西側に広がる標高300から500m前後の里山(旧薪炭林)です。このエリアでは約10年ほど前からツキノワグマが頻繁に目撃されるようになり、今では集落の人家や公共施設のすぐ近く(約50〜100m以内)にも出没するようになっています。

 人里でツキノワグマの出没が相次ぐと、一般的には「山にエサが無いからクマが人里に出てくる」とか、「人間が奥山をめちゃくちゃに開発したから、クマが居場所を失った」といった説明がされますが、当方の調査結果ではむしろ「かつて薪炭林であった里山の樹木がどんどん成長し、里山はツキノワグマにとって絶好のエサ場となり」「奥山のクマも、里山のエサ資源(オニグルミや柴栗など)を求めて行動範囲を広げ」「今では多くのツキノワグマが人里近くの里山に生息している事」が明らかになりつつあります

 また上記の写真が示す通り、この里山エリア(旧薪炭林)に残されている「凡そ10年分のツキノワグマのフィールドサイン(生態痕跡)」や、「里山において頻繁に目撃される親子グマや複数の若齢のクマ個体」などから判断すると、「一部のツキノワグマは既に里山に定着(自分のホームレンジとして認識し、繁殖している個体が存在)している可能性が高い」と思われます言わば、「里山はツキノワグマの新天地」なのです

 

<この定点観察エリアにはオニグルミの群落(森)と杉林が混在しています>

杉林内の雪面には、昨晩に形成されたニホンイノシシの足跡が残されています

ニホンイノシシは2mを超える積雪に苦労している様子が足跡から伺えます※

<また、その杉林には新しい(今日の)ホンドリスの足跡も見つかりました>

※豪雪地帯でのイノシシの冬越しは難しいため、豪雪環境に切羽詰まったイノシシが防衛本能から人間を攻撃する場合があり、大変危険です(イノシシの鋭いキバが人間の太い血管を傷つけると出血多量で重大事故となる可能性あり)一般の方はイノシシの生息場所(歩幅が小さく、ヒヅメが雪中に深く沈んだ足跡や、胴体部分まで沈み迷走気味のラッセル跡、土の地面に食痕のある場所等)へは近づかないようお願い致します

※ニホンカモシカの歩幅はイノシシよりも大きく、雪上のラッセル・行動跡は直線気味です。

 

 雪面は「野生動物の行動を記録した印画紙」であり、また雪面や樹木に残されたフィールドサインが示すのは、新潟県魚沼地方の里山(旧薪炭林)に息づく野生動物の逞しさです。この森にはツキノワグマやニホンイノシシ、ホンドリス、トウホクノウサギ、テンなど様々な野生動物が生息しています