里山のツキノワグマ 95 〜ブナの花とツキノワグマの交差点〜

 先日ツキノワグマが目撃された魚沼市横根地区のブナ林ですが、今朝(2021.04.21)も安全管理を含めて出勤前に「ツキノワグマのフィールドサイン(生態痕跡)調査」を実施しました。その結果、ツキノワグマの個体確認は無かったものの、数年前の爪痕やブナの大量開花の様子を観察出来ました。

<左上:ブナの新緑が鮮やかです 右上:新芽や花芽はクマの餌資源となります>

<左下:数年前のクマの爪痕 右下:クマの利用頻度の高さがうかがえます>

 

 実際にツキノワグマが目撃されたのは先週の金曜日(4/16)でしたので、もう同じ場所・同じ樹木で目撃される可能性はほとんど有りませんが、「クマが目撃された背景」を調査する意義は十分あります。前回のブログでは「この場所が奥山と里山との結節点に位置していること」を御紹介しましたが、一歩山に入ると「数年前のクマの爪跡」がすぐに見つかるほど、「ツキノワグマがこの場所を数年に渡って頻繁に利用していること」が分かります。このエリアは「ツキノワグマの交差点」です

 ツキノワグマの出没(※)がニュースなどで流されると「エサ不足でクマが可哀想」「山を荒らした人間が悪い」というコメントが散見されますが、実際にフィールドで調査すると「ツキノワグマの餌資源は十分ありますし」「クマは餌資源や繁殖などを行動基準として縦横無尽に山野を駆け巡っている様子」が有り有りと浮かんできます。新潟県魚沼地方には奥山にも里山にも広大なブナ林が存在し、ツキノワグマの餌資源も多様性に富んでいます。そして子熊がこの横根地区や東野名地区で昨年も目撃されるなど、戦後の燃料転換による「人里近くの旧薪炭林の餌場化」も影響し、ツキノワグマの繁殖行動や目撃回数などから推定される「新潟県内のツキノワグマの個体数」は増加傾向にある(新潟県におけるツキノワグマの生息数はこの20年で約2倍の1,600頭前後と推定)と思われます。

 

<追記(※)>

 ここ数日でも東北地方や北陸地方の各地からツキノワグマの出没や人身被害の報道があります。ツキノワグマによる人身被害の原因は様々ですが、山中に十分な餌資源が存在していても、そのクマの「他個体排除行為(ナワバリ維持)の対象となった場合」には「人間がクマから攻撃を受ける」ことも想定されます

 単独行動を志向し、群れを形成しないツキノワグマは「個体間距離の確保に関する何らかの作用」が存在していると思われますが、ツキノワグマの個体数が増加して生息密度が過密になればなるほど「他個体排除行為(ナワバリ維持)」への動機は強くなると思われます。ツキノワグマの行動圏は奥山から里山までの広範囲に及びますが、人間が廃棄した生ゴミや農産物・人工給餌物に餌着いたり、爆竹による追い払いなどが効かない「人里近くの問題個体」については、より一層の警戒が必要です

 

<左上:樹齢100年以上のブナの大木 右上:2021年はブナの大量開花年になりそうです>

<左下:チアリーダーのボンボンのようなブナの花 右下:上向の雌花と下向の雄花(雌雄同株)>

 

 2021年は当地(新潟県魚沼地方)ではブナの大量開花年となりそうです。勿論、大量開花イコール大量結実(ブナの実の豊作)という風には単純化出来ませんが、今後の観察結果が注目されます。実際に写真で確認すると明瞭ですが、「ブナは雌雄同株であり、上向きの雌花と下向きの雄花」が観察できます。春山スキーや山岳スキーをされる方にとって「ブナの花粉はスキーの滑走面にべっとりと付着する厄介な存在」かも知れませんが、こうした大量のブナの花粉も「越後(新潟)の自然環境の豊かさの指標」でもありますので、「2021年のブナの大量開花」という数年に一度の現象に注目いただければ幸いです