里山のツキノワグマ 77 〜ホオノキでクマの親子が木登りの練習? 雪中イノシシ発見〜

 昨夜11時過ぎに発生した「令和3年福島・宮城県沖の地震(地震の名称は未定)」では最大震度6強の強い揺れに多くの方が驚かれた事と思います。地震の被害に遭われた方の回復と生活復旧を強く祈念いたします。また余震にも注意しましょう。

 さて今日(2021.02.14)は引き続き移動性高気圧に覆われた休日という事で、里山(旧薪炭林)に設定した定点観察地点の雪上調査を実施しました。

<左:昨年の秋にクマの出没が相次いだオニグルミの森 右:今日もテレマークスキーを使います>

 

<左上:水田のすぐ横にある普通のホオノキですが・・ 右上:ツキノワグマの爪跡がはっきり> 

<左下:大小様々なツキノワグマの爪跡 右下:昨年秋に形成された新しい爪跡も確認できます>

 

 この定点観察地点は標高300mから500mにかけて広がる里山(旧薪炭林)と水田地帯を含んでいますが、ここ10年ほどでツキノワグマの目撃が相次ぐようになり、近年では人家のすぐ近くでもツキノワグマが姿を見せるようになっています。一般的には「奥山にクマのエサが無いから、クマが人里に出没する」と説明されますが、こうして実際にクマの出没地点を調査してみると「親子グマの存在」を感じさせるフィールドサイン(生態痕跡)も数多く発見されます(親子グマの目撃情報も時々寄せられます)。上記のホオノキに残された大小のクマの爪痕も、親子グマが新芽を採食したり木登りの練習に用いたのかも知れません(ホオノキの新芽を冬眠明けの春先に採食したとすれば、里山へのクマの定着をより強く示唆します)。

 ツキノワグマの生態から見れば、「親子グマが存在していること」の背景には、「周囲に十分なエサ資源があり」「メスのクマがその場所を子育てのためのホームレンジ(メスのクマにとって安全な主要行動圏・一種のナワバリ)としている」と判断することが可能です。別の表現を用いれば、クマにとっては「奥山のエサ不足」というよりは、「里山は様々なエサ資源が存在するクマにとっての新天地」と言えるのかも知れません

 

さて、本日のもうひとつのテーマは「雪中イノシシの発見」です。

<左上:先週に発見したイノシシのエサ場 右上:イノシシの採食行動により随分掘り出しが進み・・> 

<左下:イノシシの泥足(ベトアシ)も明確 右下:この泥足(ベトアシ)は随分新しいですね・・>

 

<左上:泥足(ベトアシ)の先の杉の木の根元に・・ 右上:大きさ80cmほどの茶色い物体?> 

<左下:良く見ると茶色の物体には体毛が?? 右下:これはイノシシの成獣ですね(危険)

※このブログに掲載の写真はクリック操作で拡大表示されます。

 

 イノシシの新しい泥足(ベトアシ)が観察されたことから、すぐ近くにイノシシがいる可能性があるので細心の注意を払って観察していると、泥足(ベトアシ)が途切れたその先には大きな杉の木があります。南東方向に開けた斜面ですので、杉の木の根元にも気持ちの良い日差しが差し込んでいますが、そっと近づくと「何か茶色の物体」があります。最初はイノシシが地面を掘り込んだ際に露出した「杉の木の根っこかな?」と思っていましたが、良く観察すると茶色の体毛があり、またタテガミ状の長い体毛も確認できます。しかしこの物体はまったく動きません。後から考察すると、この状態は「動物行動学で言うところのイノシシのフリーズ(攻撃又は逃走前の行動静止)」です

 

 最初の段階では「イノシシである可能性は50%(生死は不明)」と踏んでおり、万が一イノシシが攻撃態勢に入ると非常に危険なので、暫く時間を置いて(1時間ほど)再度遠くから「勢子出し(大きな音で鳥獣にアピールすること)」をしながら確認すると、「その茶色の物体は同じ場所で体の向きをを入れ替えています(それでも頭部は隠しています)」。この時点で「生きているイノシシの成獣(おとな)である可能性がほぼ確定」となりました。衰弱した状態にある可能性もありますが、一般の方は大変危険ですから、こうしたイノシシのフィールドサイン(フンや足跡などの生態痕跡)のある場所には絶対に近づかないで下さい

(写真で見えている部分の大きさが約80cm、背中のタテガミより前部に頭部が隠れているとすれば、体長120cm前後のニホンイノシシの成獣と思われます)

 またこのブログでは何回も言及していますが、里山の豪雪環境で斃死(エサ不足で凍死)したイノシシの死体を、同じ里山エリアを行動圏とする「冬眠明けのツキノワグマ」が「エサ資源として食害する可能性」がありますので、残雪期であってもツキノワグマとの不意の遭遇には十分御注意下さい

 

<左上:今回観察されたニホンイノシシのフン 右上:昨日調査した藤平山が綺麗に見えます> 

<左下:調査が終了したらスキーで素早く撤収 右下:小さな集落に人々の大切な暮らしがあります>

 

 ツキノワグマもイノシシも生きるために懸命です。そして人間は人間で、生きるために懸命です。この山々に囲まれた小さな集落にも、子どもたちからお年寄りまで様々な方の日常があり、生活があります。この雪国で生活する人々の暮らしが安全で希望に満ちた日々となるよう、微力ではありますが、自然教育と博物館活動を通じてしっかりと精進してゆきたいと思います。