里山のツキノワグマ 94 〜2021年最初のクマ目撃情報(ブナの新芽を樹上で摂食)を追って〜

 標題の通り、魚沼市における2021年最初のツキノワグマ目撃情報(4/16魚沼市横根地区、体長1.5m、ブナの樹上で新芽を摂食)が地元の方から寄せられましたので、今朝(2021.04.20)は安全管理も含めて出勤前にツキノワグマのフィールドサイン(生態痕跡)調査を魚沼市横根地区(エコミュージアム園内ではありません)で実施しました。その結果、ツキノワグマの個体確認は出来なかったものの、ニホンイノシシのフィールドサインを多数確認しました

 今回のツキノワグマの目撃場所は守門岳の南西側に位置する「標高500m前後の里山エリア」ですが、「奥山(守門岳、1537m)」と「里山(魚沼丘陵)」との結節点である藤平山(1,144m)に近接しています。断定は出来ませんが、手元にある情報と現在までの調査結果から推察すると、このクマは「守門岳(奥山)のブナ自然林帯(雪消えは遅いが、巨木のウロや岩穴など多様な冬眠場所が選択できる)で冬眠を終えた後」、「結節点である藤平山を経て」「雪消えが早い標高500m前後の里山エリアへ移動し、摂食行動をとっている」というシナリオ(※)が浮かんできます。このシナリオは「現在までの知見、つまりツキノワグマの行動圏の広さと餌場利用の巧みさ」に基づきます。そしてこのシナリオは当地における「奥山荒廃によるクマの人里出没説」や「クマ生息地のドーナツ化(奥山の空白化)説」を支持するものではありません。

※フンの内容物から見た「ツキノワグマの里山と奥山との移動に関する考察」はこちらです。

<当地ではブナの新緑が山頂に向けて駆け上がってゆく「ブナの峰走り」の季節を迎えています>

 

<左上:雪上に残るイノシシの足跡 右上:植物繊維を多数含むイノシシのフン>

<左下:イノシシの摂食場所は落石だらけ 右下:イノシシは植物の根塊を残んで摂食します>

 

 当方による昨年末までの調査では、新潟県魚沼地方のツキノワグマについて「採取されるフンや摂食対象の餌資源、個体目撃情報から」「冬眠前のクマの栄養状態は必ずしも悪くは無い」と判断していましたが、それを裏付けるかのように例年の通り「冬眠明けしたと思われるツキノワグマ」の目撃情報が徐々に寄せられています今回横根地区で目撃されたクマは「樹上でブナの新芽を摂食していた」ようですが、当地では里山から奥山の広い範囲でブナ林が広がっていますので、冬眠明けのツキノワグマの餌資源は十分に存在します。その一方で山中の積雪の下からツキノワグマの餓死遺骸が多数見つかったとの情報も特段ありません。故に当地では「一部で懸念されていた餌不足によるツキノワグマの大量餓死(生態系クラッシュ)は発生していない」と考えます。

 また当方では主に「里山のツキノワグマ」を中心に調査していますが、当地(新潟県魚沼地方)の積雪期の調査では「奥山におけるツキノワグマに関する大きな環境変化(※マスティング=堅果類の豊凶サイクルは除く)」は見受けられません。むしろ、前回のブログ記事で御紹介したように「2021年は奥山も里山も、ブナの実の豊作年となる可能性」が見えて来ていますこれから山菜採りや春山登山のシーズンを迎えますが、新潟県魚沼地方では「奥山でも里山でもツキノワグマと遭遇する可能性があります」ので、「クマによる攻撃(クマによる他個体排除行為、人間をクマと誤認する可能性も含む)を避ける」意味で、「クマ鈴の携行」や「(クマに似ている黒や茶色の服装は避けて)黄色や蛍光色などの目立つ服装」を推奨します

 

 またフィールドサイン(生態痕跡)が証明する通り、新潟県魚沼地方ではニホンイノシシの生息数が激増しています。従来、ニホンイノシシは豪雪地帯に位置する新潟県魚沼地方では極めて稀な存在でしたが、旧薪炭林や耕作放棄地などにおけるバイオマス(生物由来資源)の蓄積を背景として、現在では里山エリアを中心に生息地の拡大が進行しています。「猪突猛進」という言葉の通り、イノシシが人間を攻撃すると「イノシシの牙(キバ)による大量失血により」死傷事故に至る可能性もありますので、イノシシの目撃情報にも注意が必要です