里山のツキノワグマ 66 〜ツキノワグマのクマ棚と奥山エサ不足説〜

 今日(2020.12.06)は日曜日でしたが、新潟県魚沼地方は午後から天候が回復したため「定点観察地点」でツキノワグマのフィールドサイン(生態痕跡)を調査しました。その結果、ツキノワグマのフンや爪痕、樹上に残された「クマ棚」などを多数確認出来ました。

 

<ツキノワグマのフンを発見しましたが、前回の調査からかなり日数が空いているためフンの排出日時は不明です>

<内容物は現在調査中ですが、外観からも植物の小さなタネが多数確認できます。追跡個体SB1号のフンか?>

 

<初冬の時期はツキノワグマが形成したクマ棚調査の適期です>

<標高300m前後の里山エリアですが、栗の木やコナラの樹上には今シーズンに形成されたクマ棚が多数確認できます>

<この旧薪炭林の若いコナラは数年前のナラ枯れの影響が軽微だったのか、今シーズンも枯れずに実を付け、ツキノワグマが樹上でドングリを採食したことが証明されました>

<クマ棚などのフィールドサインは、堅果類の作柄とツキノワグマの採食行動を明確に記録します>

 

 今シーズン、新潟県では「ツキノワグマ出没特別警報」が発表されています。夏以降のドングリなどの堅果類の豊凶調査によって、新潟県内では当初より「堅果類の不作傾向に伴うツキノワグマの人里への出没」が予想されていました。そして10月には新潟県関川村でツキノワグマによる死亡事故が発生し、また警報発表以後も新潟県内各地でツキノワグマによる人身傷害事故が発生しています。ツキノワグマは大型の森林性哺乳類ですが、その鋭い爪と牙が人間に向かうと時に不幸な死亡事故にも発展します。このため、子どもたちの通学路や人家敷地内などにおけるツキノワグマの出没情報は速やかに警察や消防、地元自治体などの行政機関で共有され、県民・市民の皆さんの生命と安全を守るために、それぞれの立場で地域の方と一緒に全力でクマ対策に取り組みます

 浅草山麓エコミュージアムとしても、ツキノワグマに関する日々の観察結果や得られた知見を提供し、新潟県警小出警察署の皆さんが実施する巡視活動(地域安全パトロール)に反映いただきました。そしてツキノワグマ対策に携わる方々の熱意と取り組みによって、今シーズンの魚沼市内では「ツキノワグマによる人身被害」は今日現在まで発生していません。ただし、当方の調査が示す通り「今シーズンも、ツキノワグマは春から初冬まで一般住宅のすぐ近くにまで接近しているのが実際」です。まだまだ安心は出来ません。

 

 さて、今シーズンは全国的にもツキノワグマの人里・市街地への出没が頻発し、その原因のひとつとして「奥山エサ不足説」が言われています。また様々な言説の中には「今シーズンのツキノワグマのエサ不足は壊滅的であり、ツキノワグマの大量餓死(生態系クラッシュ)が懸念される」との厳しい見立てをする方もおられるようです。

 当方は「ツキノワグマの大量餓死」の発生を予想したり、支持したりする立場にはありませんが、日々のフィールド調査と知見の積み重ねの観点からすると、夏から晩秋にかけて守門岳南麓の定点観察エリア(里山エリア)で採取・検証してきた「里山のツキノワグマ」のフン(立派なフンがほとんどです)や食痕などのフィールドサインから見ても、「新潟県魚沼地方の全てのツキノワグマが飢餓状態にある」との結論には到底至りません

 そして、今シーズンの新潟県魚沼地方のツキノワグマは、夏から晩秋にかけてオニグルミやアケビ、柴栗(野生の栗の実)、柿の実などを積極的に採食し、根雪期間を目前とした12月に入り人里へのツキノワグマの出没件数が徐々に減少していることから、「全体として当地のツキノワグマは冬眠(正確には冬篭り)への移行準備が進みつつある」と見ていますもちろん、ツキノワグマは個体毎の差異が大きく、その栄養状態や行動範囲、冬眠に入る時期等については個体毎に幅があって当然です。ツキノワグマへの警戒は積雪期に向けても必要です。

 

<インジケーター(指標・目印)としている柿の木にはツキノワグマの爪跡が残されています>

定点観察エリアには、まだまだ沢山の柿の実があります(エサ不足では無い?)>

堅果類は不作気味でも、里山のツキノワグマは夏以降オニグルミやアケビなど、他のエサ資源を巧みに採食しています>

<この里山エリアではニホンイノシシの活動も活発です。そして、ツキノワグマの爪は想像以上に強力です。>

 

 ツキノワグマの生態解明や個体数の把握は県民・市民の皆さんの安全確保に直結していますので、浅草山麓エコミュージアムとしても「里山のツキノワグマの冬眠場所」や「奥山と里山との行き来の実態解明」など、自然観察の手法を中心として冬以降も「里山のツキノワグマ」の調査を継続してゆきたいと思います。