里山のツキノワグマ 87 〜クマの故郷「守門岳北面と守門黒姫」にブナの原生林を訪ねて〜

 昨日(2021.03.20)は晴天の土曜日ということで、当地(守門岳南麓)の「里山のツキノワグマ」の故郷とも言うべき「守門岳北面(守門岳の爆裂火口跡)」を構成する守門袴腰(1,527m)を調査するために、休日を利用して守門黒姫山域へ入山しました。

 

<2021.03.26 追記>

 守門黒姫へ向かう山スキールートのうち、下黒姫沢の下部(標高580m付近)でカモシカの死骸が沢底に達した雪崩の中に埋没しており、ここ数日の陽気で雪面に露出しつつあります。現在はキツネなどがこの死骸を摂食していますが、腐臭に気づいた冬眠明けのツキノワグマがカモシカの死骸に寄り付く可能性がありますので、特に早朝(薄明時)や夕方に下黒姫沢を通過する方はツキノワグマとの遭遇に御注意下さい

<左上:遥か遠くに白銀の守門黒姫を望む 右上:今回の目的地は守門袴腰(1,527m)です>

<左下:黒姫林道の橋は下流側のコンクリ面を歩行 右下:雪上調査にはテレマークスキーが最適>

 

<左:守門黒姫エリアは雪崩の危険地帯 右:雪崩によって撹乱されることで独特の植生が生じます>

 

<左上:守門黒姫エリアではブナの原生林は標高1,000m前後に存在 右上:ブナはまだ芽吹き前>

<左下:標高が上がると風裏の場所にのみブナが出現 右下:樹齢数百年の天然ブナ>

 

<左上:守門岳の北面、守門袴岳(1,537m)と青雲岳(1,436m) 右上:守門大岳(1,432m)>

<左下:守門北面は旧火口(爆裂火口跡)と言われます 右下:破間川源流部に広がるブナの原生林>

 

 なかなか時間が取れずにいましたが、幸運なことに素晴らしい条件で今回の守門袴腰(1,527m)への山行を無事実施することが出来ました。奥山でのツキノワグマの調査方法は様々な手法がありますが、当方では旧入広瀬村の「越後・大白川マタギ(奥山でのクマ狩猟集団)」の「クマ狩りの目当て(山中でのクマの発見技術)」を応用し、守門岳と守門黒姫エリアの北面に広がるブナの原生林帯を一望に出来る守門袴腰を中心にクマの生態痕跡を調査しました。3月の第3週は当地のツキノワグマにとっては「冬眠明け前」です。このためクマの生態痕跡はまだ出現しませんが、謂わば「現段階のリセット状態」を確認しておくことで、これからの季節変化を実感することが出来ます。

 ネット上の言説では「人間が奥山をむちゃくちゃに開発した」「人間がクマの居場所を奪った」といった極端なものもありますが、当地(新潟県魚沼地方)について言えばこの守門岳・守門黒姫・浅草岳エリアは越後三山只見国定公園及び県立自然公園として「素晴らしいブナの原生林」が大切に保護されています。またこうしたブナの原生林帯はツキノワグマの基盤生息域であり、現在当方が調査している守門岳南麓エリア(旧薪炭林・里山)で行動する「里山のツキノワグマ」の故郷とも考えられます。

 

 豪雪地帯の奥山での自然環境調査には、調査技能だけでなく「標高の高い積雪地帯で行動するための冬山装備や雪上技術」が不可欠です。当日は新潟県警のヘリコプターも守門岳山頂の周囲を巡視していましたが、守門袴岳(1,537m)の山頂西側付近では「雪庇の崩落を起点とした爆裂火口跡への大きな雪崩も観察されています」。大きな雪庇(せっぴ)の下に入らないのは雪山の基本中の基本ですし、雪崩の危険箇所を通過する際は早朝の時間帯を選んでリスクを低減するなど、対策を二重三重に講ずる必要があります。当方も上記の対策に加えて、凍結した急斜面での滑落防止のためにスキーアイゼンやクランポン(ブーツアイゼン)を使用して安全確保を実践しています。野外での事故防止と普及教育・啓発活動、そして自身の技量向上に向けたトレーニングも「自然学習施設としての我々の務め」です。

 雪山で遭難事案が発生すると「スキー場以外の場所でスキーをするとはけしからん」「雪山に行かなければ遭難しない」という意見もネット上で散見されます。「雪山に出掛けないこと」は確かに山岳事故の発生をある程度抑制するかも知れませんが、「私たちの自然への対応力(防災能力や調査能力)を高めること」には寄与しません

 こうした意味において、豪雪地帯の奥山で行動する越後マタギの皆さんの知恵を「謙虚に学び」「現在の科学で再定義すること」が「私たちの奥山や雪山での対応力を高め」、「ブナの原生林に代表される新潟県の優れた自然環境を守り育てることにも繋がる」と思います。

<左:新潟県警のヘリが上空から守門岳を巡視中 右:守門袴腰の三角形の頂上は最高の観察場所です>