「私たちが観察される時」 〜越佐海峡のカマイルカと 里山のツキノワグマ 〜

 先日(2021.04.03)は新潟県営柏崎マリーナへ行く用務があり、幸運な事に日本海の越佐海峡で捕食行動中のカマイルカの群れを間近で観察することが出来ました。カマイルカは体長2.3mほどの大きさで英語表記が「Pacific White-sided Dolphin」とある通り、白い腹部と灰色の側面、黒い背面が特徴的な「綺麗な形の背ビレ(標準和名の由来である鎌形)」をもつイルカです。この日は「マリーナから3海里ほど沖に出てた西側の上越方面」で「10頭ほどのカマイルカの群れ」を発見しました。

 野生動物を観察する際には「個体に近づきすぎない」「餌付けしない」「人慣れさせない」のが原則と考えますので、この日もカマイルカの群れから200mほどの距離を確保しつつ遠目から観察していました。それでもこの日のカマイルカは当方の船舶に興味があるらしく、「イルカたちは自らの意思で当方の船舶に近づき」「船舶の真横や真下を横泳ぎしながら興味深くこちらを覗いてゆきます」。ドイツの哲学者ニーチェの言葉のようですが、「私たちがカマイルカを観察するとき、私たちもまたカマイルカに観察されているのです」。基本的にはカマイルカは数頭が連携しつつ、マイワシやマサバの群れを円形に追い込んでいるですが、その合間合間に何回も当方の船舶に近づいてきます。新潟県に生息する野生動物のうち陸上の哺乳類はそれなりの観察経験を得ているように思えても、「野生の海棲哺乳類を間近で観察する機会」は自分自身仲々ありません。カマイルカについても基礎的な知識は体得しているつもりでも、海棲哺乳類であるカマイルカの本当の大きさや迫力、行動の巧みさ、群れの連携の様子など「野生個体の観察体験がもたらす情報の豊かさ」には「言葉で表現しきれない新鮮な感動」がありました

 ここ半年ほどは「里山のツキノワグマ」の調査を集中的に行ってきましたが、今回の「越佐海峡のカマイルカ」の観察体験は「野生動物に対する大切な初心(自然観察の役割)」を思い起こさせてくれました。カマイルカにはカマイルカの生態があり、ツキノワグマにはツキノワグマの生態があります。そして生物多様性の確保や人間社会と野生動物との関わりを考える上でも、「私たちは自然観察を通じて新潟県に生息する様々な野生動物の真の姿を知ることがとても大切である」と、春の日本海で再確認しました。ありがとう、越佐海峡のカマイルカ!クマの調査も頑張ります。