里山のツキノワグマ 96 〜ツキノワグマの住所表記? ミズバショウからの感謝状〜

 今朝(2021.04.22)も里山エリアで行動するツキノワグマの実態を探るべく、出勤前に魚沼市横根地区の旧薪炭林と水田地帯を調査しました。その結果、昨年に形成されたツキノワグマの特徴的な爪痕を発見しました。

<左上:残雪と朝日に映える守門岳 右上:早朝の残雪の上をホンドギツネが駆けてゆきます>

<左下:長い尾が美しいホンドギツネ 右下:当方の様子をうかがうホンドギツネ>

 

<左上:昨冬のクマの爪痕ですが・・ 右上:真横に引っ掻く爪痕は近くに冬眠穴有りとの解釈も>

<左下:湿原のミズバショウ 右下:土手のミズバショウはクマのフンに由来する?>

 

 残雪の上に残るツキノワグマのフィールドサイン(生態痕跡)を探して魚沼市横根地区の旧薪炭林を調査していますが、開始早々にホンドギツネとの遭遇がありました。キツネは俊敏なハンターですので足音はまったくしませんが、優美に尾を翻して残雪の上を駆けてゆきます。旧薪炭林で蓄積を続けるバイオマス(生物由来資源)はハタネズミやアカネズミなどの野ネズミを養い、教科書にある生態系ピラミッドの通りキツネやフクロウの餌資源となり、最後はまた土に還ってゆきます。一頭のホンドギツネの観察記録は、周囲に生息する沢山の野ネズミの存在を同時に証明しています「早朝は夜の延長」は学生時代の恩師の言葉ですが、本当に「自然観察でも早起きは三文の得」。早朝の時間帯は様々な生物を観察できるゴールデンタイムです

 さて、里山のツキノワグマですが、昨冬に発見したホオノキに残されたツキノワグマの爪痕を再度観察すると、「ホオノキの根元付近に真横に引っ掻いたツキノワグマの爪痕」があることに気がつきました。クマのことを良く知る猟師さん曰く「真横に引っ掻く爪痕は近くにクマの冬眠穴があるサイン」とのこと。つまりこの爪痕は「ツキノワグマの住所(冬眠穴)表記」なのでしょうか?猟師さんが仰ることが本当にそうなのか確かめたくなります。このクマの爪痕については様々な解釈が可能ですが、確かなことは「昨年の春から秋までの間に、一頭以上のツキノワグマ(親子熊の可能性あり)がこのホオノキに登っていた」という事実です

 

 またこの爪痕の近くには沢水が流れ込む湿地がありますが、この湿地ではミズバショウが多数咲き誇っています。そしてこの湿地近くの土手には別のミズバショウの群落が多数あります。一般にミズバショウは成熟した種が水流に乗って下流方向へ分布を広げるのですが、この仕組みのみでは決して上流方向へは分布拡大が出来ません。そこで登場するのがツキノワグマです。ツキノワグマは「餌資源であるミズバショウを種ごと採食し」「フンとして別の場所に排出すること」で、ミズバショウの分布拡大に貢献する結果となっています。生態学で言うところの「共利共生関係」になりますが、ミズバショウからツキノワグマへ感謝状が出そうですね。過去にこの湿地でツキノワグマがミズバショウを摂食していたとすれば、この夏にも同様の行動を観察することが出来るかも知れません。ミズバショウへの食痕も継続して観察したいですね。

 冬眠穴の住所表記説やミズバショウの種の運搬など、ツキノワグマの調査を通じて益々自然観察が興味深いものになります。新潟県魚沼地方の自然環境の豊かさに感謝すること頻り(しきり)です。